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【時事評論2021】

情報伝達の原理

2021-07-17
  米国の研究者が16日、会話ができなくなった人の情報伝達を脳波を読み取ることでAIの翻訳装置を通して会話を再現させることのできる世界で初めての方法を開発したという記事があった(《世界》7.21)。この研究では脳の特定部分に高密度の電極を埋め込むというロボトミー並の荒っぽい手法で行ったようだが、将来はこれを身体の外部に取り付けたセンサー、ないしは頭の外皮に埋め込んだセンサーによって脳波を読み取り、MD(モバイルデバイス)によってそのデータをクラウド上のAIに送って翻訳させ、本人にフィードバックさせて情報伝達を行う手法が出てくるかもしれない。かなり以前、IBMが手を繋ぐような身体接触で情報伝達ができると発表したことがあるが、その後その研究がどうなったのかは知らない。いずれにしてもこれが悪用されて、独裁国家が黙秘する反体制派の考えを割り出す可能性は否定できない。本項ではその懸念とは別に、脳の情報伝達の仕組みと人間社会に於ける情報伝達に共通性があるのではないか、との直観を基に、情報伝達の原理を探ってみたい

  脳の神経回路が情報を伝える仕組みについて勉強しているとき、人間社会における情報伝達の仕組みも同じような原理を持つのではないかと考え付いた。玉川大学の脳情報システム研究室ではネット上にサイトを設け、「ヘブの学習則」を基に情報伝達の強化ということを説明しているので、それを参考にさせてもらった。脳は複雑に絡み合った神経網が全体としてシステムを構成しているが、その情報伝達には化学的なものと電気的なものがあるようだ。脳は全身の臓器が出すメッセージ物質を特定の受容体で受け取り、その物質の化学情報から必要な指令を割り出し、逆に全身に神経を通して命令をだしている。またセンサー役の目・耳・鼻・皮膚から得られる視覚・聴覚・臭覚・触覚情報を基に次の行動の判断もしている。それらの多くは原始脳と呼ばれている動物に共通な基本部分で行われ、特に視床下部という部分が重要とされる。

  1000億個に上る神経細胞(ニューロン)での情報伝達は複雑であり、おおまかに言えば、軸索を通して行われる100mVのパルス信号が、樹状突起末端のシナプスという部分で化学物質を生成して化学信号に置き換わり、それが他のニューロンのシナプスに伝わって、再び電気信号に変えられて伝わっていく。こうした複雑な情報伝達システムを生物が編み出したのにはそれなりの理由があるのであり、筆者もその理由についてはまだよく理解できていない。ニューロン同士の情報伝達の際に「発火現象」と呼ばれるものがあり、伝達の際に情報が強められるか、弱められるかがこの発火の状態によって決まる。あるいはこの仕組みが情報のコントロール(重要かそうでないか)に繋がっており、そのため複雑な仕組みを利用しているのかもしれない。もし脳の情報伝達が神経の電気信号だけによっていたならば、脳の各部分での情報制御はできずそのままの形で他の部分に伝わってしまい、制御に困難を来す可能性があると思われる。脳は高度な情報制御の仕組みを持っていると感心せざるを得ないのである。

  これに対してコンピューターの情報伝達の仕組みは単純であり、信号の強弱の制御はメモリーの段階でも伝達の段階でも不可能であり、伝えられた情報をどう処理するかということは、その階層構造やアプリに依存している。コンピューターが膨大なエネルギーを消耗することはよく知られていることだが、スパコン並になると小さな発電所もしくは専用変電所が必要になるほどである。脳も体内の臓器の中では最大と言ってもいいほどのエネルギー消耗器官であるが、スパコンのような莫大なエネルギーを必要としない。生物はそのエネルギー消耗を抑えるために、途中に化学プロセスを組み入れたのかもしれない。これは筆者の仮説である。

  は以上に説明した伝達方式によって情報の強弱の調整を行っており、さらにそれを記憶として留めるために回路自体を記憶としているようである。ここもコンピューターとは大きな違いであり、コンピューターでは専用のメモリーがオン・オフの2つの状態を保つことで記憶しているが、脳の場合は専用の記憶細胞というものを持たず、回路で記憶するということを行っているようである。そのため回路は絶えず新しく形成され、その相互で強化も行われている。同じような信号を受けても、回路が強化されていれば強い記憶として残り、あるいは再現される。トラウマというものもこの脳の機能で説明できるだろう。

  長くなるので情報伝達の原理に話を戻したい。情報伝達には、①強化原理・②相互作用原理・③記憶原理、があると思われる。

  ①の強化原理では、情報の発信者の力の強弱・情報を取り巻く状況・情報獲得者の状況が関係してくる。情報を強化させるには、強化原理により権威・信用度の大きい組織から情報を発信することが重要となる。②情報を受容しやすい社会的雰囲気を前もって醸成させておくことも重要である。最後の情報獲得者の状況とは、その人がテレビをよく見るか、ラジオを聴くか、ネットを多用するかで情報へのアクセス度が変わるとともに、その人の考え方や思想・信条が大きく情報の価値を変える。独裁的強権社会では、人の考えを変えさせるために、拷問や洗脳がしばしば行われる。

  ②の相互作用原理というのは、異なる情報が相互作用して強化されることがあるというものである。全く異なる情報であっても、そこに共通する関連性があれば相互作用が生まれる。例えば中国が日本の地方自治体に抗議をしたというニュースは、普段から中国の悪質な攻撃性を知っている国民にはよりその確証を深める役割を果たし、中国の悪質性を強化する。その意味で中国の他国に対する情報戦略は失敗だと言える。

  ③の記憶原理とは、情報というものが単に伝達されるだけでなく、必ず記憶されるということにある。人間は5歳位までの記憶を忘れるようにできており、できるだけトラウマというものを残さない巧妙な仕組みを持っている。それは幼少時に叱られたり体罰で躾けられたりすることが多いからであり、物心がついてくる5歳児以降は自身の判断が伴ってくることから、その判断に記憶が重要となることから、記憶を残すようにしているのである。だが人間は不都合な記憶を忘れるという生存のための仕組みも備えており、そこには情報記憶の強弱という原理もある。コンピューターには記憶原理というものは無く、全ての入力情報は記憶されるのが原則であり、それがコンピューターの強みになっているが、情報の重要性を識別させるためには、別の手法が必要になってくる。

  以上の他にも情報にまつわる原理は考えられるが、範囲を広げると切りがないので3つの原理にまとめた。諜報戦という情報における政治的・戦争的戦略においては、この3つの原理の中で①と②が重要視され、戦略としては①が取られることになる。だが中国は最大の効果を挙げようとして外務省次席報道官の趙立堅を採用して戦狼外交をしているが、それは反って中国の傲慢性を感じさせてしまっており、失敗していると言えるであろう。中国はより世界に信頼感を高めるために、国内向けの高圧な態度は捨てて穏便な発言に切り替えるべきであろう。だが幸いなことに趙立堅が活躍していることで、世界は徐々に中国を真の脅威だと見做すようになってきている。情報伝達は個々人間においても個人対組織においても、世界の政治においても最大の力になっていることは間違いなく、これについて原理を理解してうまく対処することで、世の中はもっとスムーズに運営可能になるだろう。


  

  
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