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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20)

【時事評論2021】

個と全

2021-06-14
  「個と全」というシンプルなタイトルはそのシンプルさ以上に重要な理念を含んでいる。まず「個」とは何かについて説明しよう。「」とは全体に対する構成要素を意味し、国家に対する個人、会社に対する社員、というようなことを指す。「」とは何かというと、思考の対象の全体を指す。たとえば宇宙論を考えようとした場合は全は宇宙全体を指し、個として各種の星々や星団を扱っても良いだろう。本項では人間世界を「全」として、国家や人間個人を「個」として扱うことにする。だがその関係の本質は諸々の事象に当てはまるはずであると考えている。

  ある機械を考えた場合、その構成部品は個に相当する。個には役割があり、不良品であると機械全体が不調に陥る。それと同じように、人間社会もそれを構成する国民に不良品(悪人)が存在すると、それが社会全体の安定性を損なう。特に指導者が悪人(良からぬ欲望や陰謀を持つ人間)であると、社会に不満が溜まる原因となり、ひいては政治が不安定となって崩壊する。同じ個でも、その役割によって影響度が異なることになる。

  個がもし主張を持っていた場合はどうなるのであろうか? 「オレは俺の生きたいようにいきる」と主張してその役割を放棄したら、当然の結果として不和が生じる。だが個の主張がある程度の支持者を集めたら、それは勢力となって不和の拡大に繋がる。現代における左翼思想家宗教的偏執者、あるいは愛国者の一部はこうした不和の源泉になっている。また極端な自由主義者も同様である。民主主義の世界ではこれらの異端者をも包容することになっているため、異端者が多くなればなるほど社会は不安定になる。アメリカ社会がその典型であろう。

  だが最近の世界の世論調査によると、アメリカでは大統領がトランプからバイデンに変わったことで、世界民の米大統領に対する評価が一気に改善されたという(【時事通信】《アメリカ》6.11記事)。だがアメリカの民主主義に対する評価は懐疑的だというところが興味深い。全に対してトップの果たす役割が大きいことが如実に示された形になった。だが相変わらずトランプ支持者が根を張っているようであり、それは虚構に基づく信仰のような熱狂から来るものであるが、それでもトランプの主張はまだ支持を受けているという現実がある。

  独裁国は個の主張を許さない。飽くまでも指導者の主張が全ての価値基準となり、それに異を唱えようとすると弾圧の憂き目に遇う。その独裁者がこのところ世界に増えつつあるようなのは不気味であり、世界全体に対する個としての国家に異端者が増えてきていることを意味し、それは当然の結果として世界を不安定化させている。だがその現象はもっと根深い原因から発生しているのであり、大雑把に言えばストレスの増加、もっと理論的な言葉を使えばエントロピーの増大から来ていると言えるであろう。つまり現在の状況は必然的過程から生まれていると言うことになる。

  もし誰かが世界の平和を願うとしたならば、その人は祈るだけでは何の効果ももたらさない。その平和主義者はもっと本質的な問題に目を向けるべきであり、その本質とは世界のルールの問題である。つまり現代は、個としての国家がそれぞれ勝手な主張を繰り返し、特に中国はこれまで有効であった世界ルール(国際規約)は無効であり、先進国連合が勝手に一方的に決めたものであり、中国には中国としてのルールがある、と主張し始めた(【時事通信】《中国》6.12記事)。これは理論的に言えば正当な主張であり、国家に自由意志の表明が許されていることから、中国の主張を否定する根拠がないという現実に気が付くのである。それをノムは「主権の問題」として捉えている。

  国家という個が主権を持つ限り、その主権の行使を間違いだとする論拠はないことになる。もっと細かい話になると、世界が中国の「一つの中国論」を認めてしまったことで、中国が実態に沿わない台湾領有権を主張したからといって、それを間違いだと指摘できないのと同様である(【時事通信】《国際》1971.10.25記事「アルバニア決議」)。ルールを変えるためには、世界が「一つの中国論」を国連で否定して、中国と台湾をそれぞれ独立した国家と認めるしかないのである。あるいは世界が一致して中国を徹底的に崩壊させるしか手がない。国家の主権というものが、個としての主張である限り、世界システムがうまく動かなくなるのは必然であり、この問題は第二次世界大戦直後に科学者らが世界政府構想を考えた際に、主権問題を放置したことから未だに継続している。これに対して正しい判断をしたのは女性の無名のジャーナリストのエメリー・リーヴスただ一人であった(3.28「世界連邦の可能性 」参照)

  彼女は大戦末期の状況下で戦争の原因を考え、それは各国の主権の主張から生じるとし、国家に主権があるかぎり戦争は不可避であると『平和の解剖』に書いた。そして戦争を無くすには世界でただ一つの主権主体である世界連邦の形成しかないと説いた。この考え方は完全にノム思想と一致しており、ノム思想はもっと科学的な本質論からこの結論を導き出した。すなわち、「個と全」の本質論である。

  自然界に存在するあらゆるシステム(宇宙構造・自然生態系・人間界)はそのシステムを支える基軸となる法則なり原理を持っており、宇宙構造を作り上げたのは物理学に於ける法則(現在「大統一理論」が追及されている)であり、自然生態系を作り出しているのは「自然淘汰」・「適者生存」・「弱肉強食」・「進化論」などの原理、または法則であり、人間界を支配しているのも未だ動物に当てはまるこれらの法則である。これが人間の知能の進化によって相転換が起こることで、人間界に新たな原理が加わるだろうとノムは考えており、それを人間が進化したネオサピエンスによる知的革命が成し遂げるだろうと予測している。その新たなステージになれば、現在の人間界の抱えている多くの問題が解決可能な形になるであろう。

  その際重要なのは、人間界の基本構造であるピラミッド構造が完成されることであり、国家群は連邦を頂点とするピラミッド構造に相転換する。すでに国家は相転換を成し遂げており、それは古代の国家成立の時期であったと考えられる。国家が形を整えたときには、その支配者が決めたルールが適用された。暦・通貨・宗教・道徳・経済・政治、などが国家内で統一された。未来世界では連邦がこれらを統一することになる。それは言うほどに簡単なことではなく、大いなる産みの苦しみの後に成し遂げられることになるだろう。

  このピラミッド構造は自然界にも見られるものであり、いわば生命系の本質であるとも言える。自然界を支配しているのは人間であり、人間が生命系ピラミッドの頂点に君臨している。だが人間が愚かな動物的欲望に支配されているため、そのピラミッドは自然界のルールを逸脱し、ついには自然界を破壊しようとしていると捉えることができる。人間自身が進化してネオサピエンスとしての知的存在に進化すれば、この無秩序が制御可能になり、人間界は人工生態系を創りながらも自然生態系との調和を図るようになるだろう(1.7「制御思想」参照)

  これをエントロピーの概念から説明することもできる。生命系自体はエントロピー減少に向かうが、人間界の諸活動はエントロピー増大が必然的であるため、生命系とは矛盾が生じる。だがそれは調和させることは可能であり、生命系のエントロピー減少と人間活動によるエントロピー増大が釣り合えば、地球生態系(ガイア)の安定的な維持は可能であると考える(6.11「人類文明のエントロピー的解釈 」)。その際に最も重要なのが全を支配するルールであり、それは必ずしも「法」を意味しない。すなわち未来世界では「道理」が最も重要な規範となるからであり、法や法律は明文化されたものであって道理以下の価値しかない。道理は全ての事象に適用可能であるが、法は適用可能な条項がないと適用できないからである(20.11.27「権威主義・権利主義からの脱却・法律主義から道理主義へ」参照)。道理を判断するのは恐らくAIになるであろう。AIだけが不偏不党の存在になり得るからである。


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