本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20)

【時事評論2020】

「核廃絶」という幻想(20.8.15追記)

2020-08-08
  8月6日、広島に原爆が投下されてから75年が経った。それを記念してか、ナイジェリア・アイルランド・ニウエ(ニュージーランドに近い南太平洋島嶼国)の3ヵ国が、2017年に国連で採択された「核兵器禁止条約」に批准した。あと7ヵ国が批准すれば90日後に発効することになる。肝心の被爆国である日本が批准していないと世界から批判を浴びているが、この条約ほど欺瞞と幻想に満ちたものは歴史上かつてなかった。つまり核保有国は何処もこれに批准しておらず、核拡散防止条約で核保有の許されない国々がこの条約を唱えているからである。持たざる者のヒガミだとは言わない。その内容が現実を無視していることに大きな矛盾があるからである。
 
  この条約が2016年10月28日に国連で「交渉推進決議」された際、賛成123・反対38・棄権16で可決された。反対したのは核保有国のほとんどと、被爆国の日本であった。核保有国の北朝鮮は賛成、中華人民共和国は棄権した。だが北朝鮮は翌年までに不参加と態度を変えた。結果として2017年7月7日に122ヵ国・地域の賛成多数により採択された。全核保有国(北朝鮮含む)は不参加、アメリカの核の傘の下にあるカナダやドイツなどNATO加盟国や、親米で二国間軍事同盟を結ぶ日本・オーストラリア・韓国なども不参加となった。核非保有国としては、核兵器保有国から核によって恫喝されるのはたまらないという気持ちがあるのは当然であり、なぜ日本が反対し、北朝鮮が賛成し、中国が棄権したのかは非常に興味深いことである。採択後批准した国は43ヵ国に上り、あと7ヵ国が批准すればその90日後から発効となる。
 
  核兵器禁止条約は核軍縮を規定した「核拡散防止条約(NPT)」と”核兵器なき世界”の間の法的ギャップを埋めるという役割があり、また批准国の”核兵器不所持宣言”の意味も併せ持つが、その実効性は全く無い。つまり意義は認められるが何の役にも立たないのである。NPTは現実的条約であり、核廃絶を目指す条約ではなく、核兵器国にその義務を課していない。すなわち、核兵器国の意向によっては、無期限に核兵器保有を許容する条約となっている。米ソ間で結ばれた「中距離ミサイル全廃条約(INF)」はロシアの違反で米国が一方的に2019年2月1日に破棄を通告しており、既に米露とも既に中距離弾道ミサイル開発に入っている。2011年に米露の間で結ばれた戦略核兵器制限条約(新START)は来年2月に失効するが、米露とも継続の意思はあるようである。
 
  簡単に考えてみよう。もし世界の全ての国が仮にこの条約を批准して核兵器が無くなったとしたならば、一番喜ぶのはテロリストである。原子力発電の廃棄物として大量のプルトニウムが世界で余っている。ソ連の核兵器があったウクライナが独立したときに、管理体制が崩れたために核兵器やその原料であるプルトニウムなどが密かに他国に流れたという噂がある。テロリストがそれを手に入れることは比較的容易であろう。そうなるとテロリストはこれを恫喝の手段として用い、各国から莫大な資金を集めることを可能にしてしまう。
  少し複雑に考えて、核保有国(現在9ヵ国と言われる)が核兵器を手放さなかったとしよう。この場合はこれら核保有国が覇権を握ることになる。彼らもテロリストと同じく、核兵器を恫喝の手段として使うからである(現在のところ北朝鮮だけが恫喝手段として用いているが、中国も現実的に使っている)。だが全ての国が核兵器を保有することになったら、偶発的核戦争の可能性は飛躍的に高まってしまうことから、現実には現在の状況が最も好ましい状況であると言えよう。
 
  日本が核兵器禁止条約に不参加なのは、日本が現実論に立っているからであり、自らの核兵器保有を完全に否定しながらも、現状を追認しているからに他ならない(8.6「核兵器を巡る日本の立場」参照)。もし日本がアメリカと軍事同盟を結んでいなければ、今頃とっくに核兵器保有国になっていた可能性は否定できない。だがそれには憲法改正の必要があり、それもまた現実的に不可能であったために、同盟の道を選んだのである。つまり「核の傘」の下で自らの憲法の理念を守ろうとしているのである。その意味で日本(少なくとも政府)は核廃絶という幻想を抱いてはいないことは確かである
  弱小国が核大国に対抗できないからという理由でこの核廃絶という幻想を共有して圧力として用いようとしているのが現実であり、この条約で核兵器が無くなるなどという幻想を誰も持っているわけではない。ただ世界的なパワーバランスから、核非保有国という集団的パワーを作り出して、それを国際政治に使おうとしているだけである。
  日本が現実論に立ってこの条約に不参加の態度をとっているのは実に賢明なことであり、もしノムの描く未来社会が到来した場合でも、連邦だけが核を保有することになるだろう。それはテロリストによる脅しに屈しないための最後の切り札だからである。未来世界には戦争が無くなるが、テロリストや反動勢力の出現を完全に防ぐことは不可能である。そのような万が一のリスクに備えて、世界連邦だけが核兵器を最低限量保有するという体制をとることになる。
 
  蛇足的に付け加えるが、「核廃絶」というキーワードをグーグルで検索すると、廃絶派の記事ばかりが出てきて、反対論はほとんど検索されない。グーグル検索の欠点である重複もあるので正確なことは分からないが、200件まではほとんど廃絶派であった。それも地方自治体や団体が多い。その最後に「関連のない記事は除外しています。全てを検索したければもう一度再検索してください」と表示されるので、もう一度やり直した。だがそれでも500件まで廃絶派の意見で埋め尽くされていた。ノムのこのサイトは検索されない。ところが、「核廃絶 幻想」というワードで検索すると、ノムのサイトはトップに表示された。これは驚きであるとともに興奮するほど嬉しかったが、なぜ「核廃絶」というキーワードでいろいろな意見が検索できないのか、グーグル検索に疑問を持った次第である。

 
 
  
TOPへ戻る