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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2024】

情報論

2024-04-30
  「情報論」というテーマはとっくに書いたつもりでいたが、前々項で参照項を探して、無いことに気付いた。遅まきながらではあるが、改めて最も重要なこのテーマを取り上げたい。物理学の世界では、実存するものは「情報」であって、物体は存在しない、とする仮説が唱えられている(23.11.20「人間も物質も実在していないとする現代物理学の考え方」)。そうした新たな視点からしても、情報が如何に重要かが分かろうというものである。

  物理学の視点はこの際は外しておこう。まず重要なのは、人間界は知識という情報を子孫に伝えるために、文字という形で情報を残すことを発明したことである(23.2.5「文字の発明」)。それがあったからこそ、今日の科学技術の発展があったと言って良いだろう。また生命界の視点からみると、生命はそのシステム情報を遺伝という形で子孫に伝えることで、延々と生命の繋がりを維持してきた(23.1.6「遺伝」)戦争論の視点からすると、情報を制した側が勝利を手にすることができることは明々白々である(21.7.4「戦争論」)。先ごろNHKの番組でノルマンディー上陸作戦のことが報じられたが、情報戦の中で、連合軍が6月6日の天候の回復を予測したことが、作戦を成功に導いた要因であることが細かく説明されていた。これは以前から知られている事実であるが、改めて情報の重要性を認識した次第である。現代の企業競争も、科学技術の先端を行く企業が成功して覇権を握ることは、米国の巨大IT産業の成功を見れば明白である(20.9.16「競争はいつ芽生え、何をもたらしたか?」)。戦争と同じであり、情報を制したものが勝利する

  だが一方、科学者が明らかにした地球温暖化を証明する各種データが、世界を動かすことに繋がっていないのはある意味不思議である。企業は相変わらず利益最大化を図るために競争を止めようとはせず、その規模を拡大させている。新たな技術を惜しみなく企業活動に応用して、業界の制覇を狙っている。現在は生成AIの世界でその激烈な競争が行われており、また製薬の業界でも同様なことが起こっている。人間界に情報の自由というものがある限り、それを元に儲けに走る人間がいるのは当然であり、また情報を作為的に改竄することで、独裁を維持しようという独裁国家が出てくるのも当然である(1.28「自由主義経済の蹉跌」)情報はなんらかの形で正否が検証されなければならず、また制御されなければ悪用される

  情報を規制すると言うと、「それは独裁だ」とすぐに反発する人が出てくるが、良い心根を持つ人には情報を規制する必要はほとんどないが、悪い心根を持つ人にまで不必要な情報が伝わると、それを悪用しようという輩が出てくるのもまた必然なことであり、何らかの形での規制は必要なのである。要は情報の善悪もしくは適否を誰が判断するのか、という問題に行きつくだろう。現代ではそれは裁判所などが担っているが、未来世界ではAIがそれを担うようになるだろう。どちらの側にも組しない客観的立場を取ることのできるAIだけが、公正で論理的で道理的な判断を下せると考えるべきである。

  現代では自由競争ということが重要視されているため、企業はかなり好き勝手に情報を自社に都合の良いように扱っている。コマーシャルも1つの情報だとすれば、それによりIT企業は儲けを得られるため、何とかニュースの間にコマーシャルを潜り込ませて、視聴者に有無を言わさずに見させるようにシステムを作っている。最近、楽天の運営するインフォシークニュースは、記事のど真ん中にコマーシャルを読ませるようなダイアログを入れるようになった。それを消す手段がないため(通常は必ず「×」が表示される)、視聴者は記事を読むためにはコマーシャルをまず見なければならないように設定されている。これは企業が情報を手玉に取って、視聴者に詐欺行為を行っているのと同じである。ネット購入しようとすると、必要な商品が表示される前に無関係な商品の広告を見なければならないことも多く、また「カートに入れる」をクリックすると、もうキャンセルすることはできなくなるように仕組まれている(我が家には息子というPCに通じた人間がいるので何とか回避できた)。

  情報の世界に新たな脅威も生じている。生成AIによるディープフェイクである(23.9.26「ディープフェイクでの脅威」)。アプリを使えば素人でも簡単に他人の顔の写真を使って、ポルノ行為を行わせることができるという。こうしたことは、これまでの情報の世界ではかなり高度な技術を要することであることから、専門家でないとできないことであった。だが犯罪の意識がないまま、興味本位でこうした悪戯行為が行われるようになると、情報というものに対して疑念が生まれてくることになる。ニュースもプロパガンダめいたものになり、誰もニュースを信じなくなる時代が目の前に迫ってきている

  これらの事象はあらゆる分野で起こっており、それらが偶然にこの時代に同時に起こっているというよりも、この時代だからこそ必然的に起きていると考えた方が納得がいくであろう。これを「情報の錯乱時代」と表現すれば分かりやすいかもしれない。もはや人々は何を信じれば良いのかさえ分からなくなっている。ネット詐欺に引っかからないように注意深い対応をしている人も、インターネットを使っている限り、ウイルスを紛れ込まされるというサイバー攻撃を受けたら、ひとたまりもなく騙されてしまうことになる。

  未来世界ではこうした情報の錯乱を事前に防ぐために、あらゆる規制や制御を働かせることになる。そしてそれが可能なシステムを新たに構築し、根本的な解決を目指すだろう。ノムはそれを予想し、インターネットに変わる未来世界の情報システムとして「ノムネット」を提唱している(21.2.1「ノム世界の情報システムの提唱(ノムネット)」)。それは単に情報に規制を掛けたり、制御したりするのではなく、情報発信者に規制を掛けることで行われる。基本的に、ネット上での情報発信者は、人格点が優れていなければならないと考えるからである(20.8.30「未来世界における人格点制度」)。そのシステムでは、AIが適切に使われて、悪意のあるアプリやウイルスを排除することができるだろう。そしてそれを発信した者を特定することができる未来世界では情報に関する事件はほぼ起こり得なくなるか、起こってもすぐに解決可能となるだろう

  この項が公開された当日の30日、米国のニュースが舞い込んだ地方紙がオープンAIとマイクロソフトを提訴したというものである。シカゴ・トリビューンなど米地方紙8紙は30日、「チャットGPT」を開発したオープンAIとマイクロソフト(MS)に著作権を侵害されたとして、米ニューヨーク州連邦地裁に提訴した(アメリカ)。金額は明示していないが、損害賠償などを求めている。数百万の記事が無断でAIの学習に使われたほか、有料サイトの記事なども転載され、新聞社の事業が打撃を受けていると主張した。記事の利用停止やデータの破棄も求めている。これは情報の基本に関する問題であり、一旦有料で公開された情報は、誰でもそれを利用する権利があるはずであり、ましてやAI学習を妨げるものであってはならないはずである。時代の趨勢、技術の進歩による優位性の逆転と考えるべきである。

  ただ、独裁国家などによる歪められた情報が、無作為にAIに学習されることを考えると、生成AIの情報に大きな誤りや偏りが生じる懸念があることを改めて考えた。こうしたことを防ぐには、情報に対して、それが発信された時点で、信頼性の評価付けをすべきである。その評価自体もAIで為されることになる。偽情報を含まない正しい情報を学習しているノムAIならば、それは可能であろうと思われる(21.4.6「ノムAIの提言」)ノムAIは、その意味で情報の権威となるであろう。

(4.27起案・起筆・4.29終筆・4.30掲載・5.1追記)


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